27歳 フリーランサー 女性 tumtumさん 神奈川県相模原市緑区で本当にあった心霊の怖い話
これは私がまだ二十歳になったばかりの頃に体験した、今思い返してもゾッとする実話の心霊現象です。
静かな湖畔、その地下へ
神奈川県相模原湖。かつては観光客で栄えたリゾートホテルの跡地を私たちは訪れました。私たち、とは同じ大学に通う友人6人と私の合計7人です。時刻は深夜12時過ぎ。真夏の肝試しにはうってつけの時間帯でした。
ホテルはとっくの昔に廃業し、今では建物も撤去されています。更地となったコンクリート打ちの地面に車を留めると、私たちはさっそく目当てのものを見つけました。それは・・・。
地下駐車場へと続くスロープ。
「あれだな」と私が呟くと、皆がいっせいにスロープを見つめ、口々に小さな興奮を漏らし始めました。
「行ってみようぜ」誰かが威勢よく言い放ちます。その言葉は静まり返った不気味な湖畔に不自然に響き渡ります。これが一人、あるいは二人であったならとても耐えられる雰囲気ではなかったでしょう。しかし、7人で群れていた私たちは、興奮とほんの少しの見栄を盾に暗い地下駐車場へと吸い込まれて行ったのです。
肩透かしの地下空間
落書きスプレーのされたコンクリート壁。至るところから伸びる雑草。
入り口こそ、よくある怖い話に出てくるようなおどろおどろしい感覚を覚えたものの、目が暗さに慣れるにつれて、恐怖は散ってしまいました。
手に持った懐中電灯を握りしめながら、奥へ奥へと進んでいきます。「大したことないな」それが単純な感想でした。
緊張もほどけ、軽口を叩きながら進む私たちには、もはや肝試しに来ているという感覚すら薄れてきました。「心霊さんよ、いるんなら早く出てこいよ」そんなことを笑いながら叫ぶ友人もいました。
しばらく進むと、大きな防火扉のようなものが現れました。私と友人のひとりは興味本位でその扉を開き、中へ入りました。他の友人たちは扉の外で雑談をしています。防火扉の中はだだっ広い空間が広がっていました。
懐中電灯の細い光を壁に沿って照らしていったその時、何か気味の悪さを感じ、私たちふたりは目を合わせました。友人も同じことを思ったのでしょう。
この中はやばい。
外に出ようとした振り返った時です。防火扉が大きな音を立てて閉まりました。
不気味な部屋
反響音が室内を満たします。背中に寒気が走りました。一瞬の沈黙を置いて、一緒に閉じ込められた友人の絶叫。
続けて扉を叩く鈍い音。私は動揺して懐中電灯を落とし、慌てて地面に手を伸ばします。
何が起きたのか理解が追いつきませんでした。ただひとつ確かだったのは、友人の絶叫が私の冷静さを急速に奪っていくことでした。
「静かに!」私は叫びました。パニックが伝染するのが自分でもわかりました。このままだとふたりとも正気を失う。私は拾い上げた懐中電灯で友人の顔を照らしました。
目を見開き、血管の浮き出た顔で絶叫する姿。
私は彼を照らしたことを後悔しました。もうだめだ。そう諦めかけた時、ようやく扉が開きました。
「そんな本気で焦るなよ」そう笑う友人たちに、私は本気で怒りました。
彼らは悪ふざけで外から扉を押さえていたのです。激怒する私とは対象的に、閉じ込めれた友人は一言も喋りません。
暗くて表情はわかりませんが、極度の緊張でぐったりしていたのでしょう。「もう帰ろう」と提案する私に、友人たちは「まだこれからじゃないか」と楽しく笑うだけでした。
結局、ここで引き返したほうが良かったと、後に後悔することになるのです。
さらなる地下へ
突き当りまで進むと、地下二階への階段が現れました。歓喜の声が上がります。私は怖い思いをしたせいか、もう乗り気ではなくなっていましたが、多数の意見に押されてしぶしぶ後に続きます。
地下二階は今までよりも更にボロくなっており、ところどころ床が抜け落ちていました。心霊よりも怪我のほうが心配になるほどです。床を懐中電灯で照らしながら、慎重に前に進みます。
「記念撮影でもしようじゃないか」そう誰かが提案しました。
「もしかしたら心霊写真が撮れるかもよ」「テレビとかに高く売れるんじゃねえか」皆好き放題に喋ります。最近デジカメを買ったばかりだという友人の一人が、得意気にカメラを構えました。皆は肩を寄せ合い、ピースサインでポーズを撮ります。
カシャ、カシャとシャッター音が響きました。連続で何枚も撮っていきます。
「あれ?」
カメラを持っていた友人が、先ほど撮った写真を見返し始めました。皆は一気にざわめきます。
「撮れたのか!?」「見せてくれよ!」
カメラの液晶から顔を上げた友人は、あきらかな作り笑顔でこう言いました。
「そろそろ帰ろうか」
その場にいた全員が、いっせいに何かを理解しました。
何が起きたのかを聞いてはならない。その暗黙の了解が波のように全員に伝わったのでしょう。
「帰ろう」という意見に反対する者はひとりもいません。さっきまでの勢いを失った我々は、通夜のように一言も発さないまま、ゆっくりと地上へと歩みを進めました。
できることなら走り出したい。走って逃げてしまいたい。
しかしここは暗闇に覆われた地下二階。下手に急いでもすぐに外へは出られません。恐怖と緊張に耐えながら、一歩一歩をゆっくり戻るしかないのです。地下二階まで来たことを全員が悔やんでいたでしょう。
地上へのスロープへ差し掛かった時、堰を切ったように皆いっせいに車へと走り出しました。声を一切上げず、車に飛び乗ると、急いでエンジンをかけてアクセルを踏みます。
「何が撮れたんだよ!?」
帰り道、私たちは奪い合うようにデジカメの液晶を覗き込みました。
そこには、笑顔で写真に映る私たちの姿。そして、その背後の柱から真っ白い腕が一本伸びていたのです。
それは紛れもない人間の腕でした。肘から先だけしか映っていませんでしたが、その手は我々に向かって伸ばされていました。まるで柱の向こうへ引きずり込もうとするように。
「霊を見たのか?」写真を撮った友人に問いかけると、「姿は見ていない」と答えます。
「撮った写真を確認しただけだよ。やばいのが映ってたから、すぐ引き返したほうが良いと思ったんだ」
「なんだ見てないのかよ」
「よく見ると光の加減なんじゃねえか?」
「誰かの腕が反射して映り込んだだけかもよ」
怖さを否定するように、皆が会話を弾ませます。心霊現象なんてなかった。そう結論付けようとした時、今まで口を閉じていた友人が話し始めたのです。それは私と一緒に閉じ込められた友人でした。
「ずっとついてきていたじゃないか」
そう彼はぽつりと言いました。
「あの防火扉の部屋からずっと、ついてきていたじゃないか」
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