亡くなったオーナーのレストランに集まる招かれざる客達

34歳 専業主婦(育児休業中)  女性 える仔さん 福島県いわき市で本当にあった怖い話
これは私が以前に勤めていたイタリアンレストランの閉店作業中に遭遇した実話です。

今思い出しても二度と体験したくない心霊現象ですが、毎年お盆の時期になると自然と思い出してしまうほど恐ろしかったです。

その日はお盆期間中ということもあり、大変沢山のお客様でレストランは賑わっていました。私はホールの担当で、配膳や運搬をメインにドリンク作りのサポートをしながら忙しく動き回っていたので正直かなり疲れていました。やがてラストオーダーを終えて閉店の看板を出しに行くと同時に最後のお客様の車が駐車場から出ていくのを確認し、メインの入り口の鍵を掛けたのでした。

閉店作業を終えて

その日のラストスタッフは私を含めて3人でした。厨房担当のKさん(男性)。ピッツァ担当のYさん(女性)。そしてホール担当の私は全ての片付けを終えて、疲れたし一息いれてから帰ろうと言うことになり、店の一番奥の個室で飲み物を飲みながらレジ閉め作業と雑談を楽しんでいました。

他のスタッフは誰もおらず、事務所の電気も消し、自分達以外には誰も居ないことを確認してホールの電気をはじめに、厨房の電気も消し、最後に通る出入口以外の全て鍵もチェック済みでした。間接照明程度の薄明かりのホールは一番奥はほぼ闇で、どこまでが壁かもわからないくらい真っ暗。

毎回それを見るたびに、電気の消えたあの奥には行きたくないなとな何と無く思っていました。と、言うのもこのレストランにはとある噂があったのです。

噂があったレストラン

このレストランは社長が自分で建てたものではなく、とあるご夫婦が経営する店舗を買い取ったものでした。

当時の上司からの又聞きですが、とても仲の良いご夫婦でレストランも評判だったのが、若くしてシェフであるご主人が病気で亡くなってしまい、二人の夢である店を畳んでしまうのも惜しいと奥様が悩んでいたところに社長が名乗りをあげたそうです。

実際、車通りも多く、立地としても悪くない場所で話もトントン拍子に纏まったそうですが、一つだけこれだけは守ってほしいことがあると言われたそうです。

『外観を絶対に変えないと約束してください。それ以外は好きにしていただいて結構です』

それなら御安いご用だと社長も同意し、内装は多少、手を加えたものの淡いペールピンク色の外壁はそのまま残す形をとり、時々様子を見に来る奥様も満足そうに料理を楽しんでいる姿を私も何度か見掛けたことがありました。しかし、様子を見に来ているのは奥様だけではありませんでした。

スタッフの何人もが黒いサロンに白いコックコート姿の男性を目撃して、一瞬はメインのシェフであるKさんかと思うそうですが、Kさんの休みの日にも目撃者は多く、その誰もが顔を見ていないというのです。

私も何度か目撃したことがあり、背格好と立ち姿を上司に話すと、この店の元のオーナー兼シェフだろうと教えてくれました。亡くなった後も幽霊となって自分の店の様子を見に来るのかな、と、暖かい気持ちになったのを覚えています。

そういう目撃例があるレストランなので、何か別のものも居るにはいるだとうとは思っていましたが、それは突然として姿を現し始めたのでした。

真っ暗なホールから聴こえる声

店の一番奥の個室に引っ込み、好きな音楽やファッション、食べ物、最近あった面白い出来事などの雑談を楽しんでいた私達でしたが、突如としてピッツァ担当のYさんが吸っていたタバコを消しながらこう切り出したのです。

「実は私、少しだけ人じゃないものが見えるんですよ」

本当に突然の発言でしたが、私も似たような体質だと飲み物を口にしながら答えると、お金を数えていたシェフのKさんはそういう話が苦手らしく「やめてよちょっとー。怖い話苦手なんだからー」と苦笑いをみせましたが、ここで、私もあることに気が付いたのです。

微かに話し声らしき声が聞こえるような気がするのです。

しかも誰も居ない、電気の消えた真っ暗なホールの方から複数の話し声らしき声が何と無く耳に入ってきたので、うわぁ…と思いつつシェフのKさんに有線放送消し忘れたんでしょ~?と冗談めいて言うと「消し方がわからないからコンセントごと引っこ抜いたから音が鳴るはずがないよ。それより声って何、何処に聞こえるの?」と苦笑いを固くさせて詰め寄ってくるのです。

隣に座るYさんも表情を強ばらせた顔色は青く、声を振り払うように首を二、三度振ってみせましたが、相変わらず話し声は続いていました。そこで私はまた気が付いたのです。

ここは店の一番奥で余程のボリューム出ない限り、ホールからの話し声なんて聞こえる筈がないことに。

状況を理解した私達三人はパニック寸前になりながら自分達の飲み物は明日片せばいい、最悪怒られても構わないと荷物をかき集めて部屋を飛び出し、厨房奥のスタッフ出入口へと走り出しました。

当然、その話し声が聞こえるホールの横を通らなければならず、何も見ない聞こえないふりをしながら足早に抜けようとしましたが、その声はよりはっきりと真っ暗なホールから聞こえるのです。

【何かを話している】が【何を話しているかはわからない】ほど大多数の話し声は店の中に収まるはずのない人数である事に更に恐怖を覚え、視線を反らすと、確かに有線のコンセントが抜けているのが見え、足が縺れそうになりながら転がるように店を飛び出して車に乗り込み家へと帰りました。

帰り道にどうか何もありませんように!と、強く願ったお陰かは分かりませんが無事に家に着くことが出来たのは幸いでした。

声の正体

昨日のあれはなんだったのかとほぼ気の抜けた状態で翌日出勤しましたが、特別これといった変化もなく、夢だったんじゃないかとさえ思えたほどでした。

半日ほど仕事をしてようやく落ち着いた私は仕事の休憩時間を利用して、こういう事態に詳しい知人に電話をして一部始終を話しました。すると、その答えらしき話を聞くことができたのです。

なんでも、このイタリアンレストランがある地域は明治前後の廃仏毀釈によりお寺を壊された為に、寺のない墓地が多く、結界とまでは言わずとも力で護られていないためにお盆期間中に帰って来た幽霊がいついてしまったんじゃないかというものでした。

「もう少しでお盆も終わるから、そしてらまた静かになるよ」

励まされているにしても納得できない私は一応お礼を言って電話を切り、同じ体験をした二人にも説明した方がいいかなとメールを打ちながら道路を挟んで向かい側のコンビニに行くことにしました。

お昼御飯を買って店を出ると、普段はまっすぐ職場に戻るのですが、その日は妙にコンビニ奥のフェンスが気になり、特に考えもせずそちらへと向かってフェンス先を覗き込んだ途端、ある意味自分なりの納得した答えを見つけました。

そのフェンス先は一面の墓地が広がり、知人の言う通りに寺がなかったのです。

私は退職しましたが今でもそのイタリアンレストランは名前を変えて営業をしています。

しかし、奥様との約束である外観も変えてしまい、お店の様子を見に来ていたであろう幽霊のオーナーシェフもどうなったかは分かりません。勿論、店の中で起こる怪現象の行方も。

ただ、もう二度とあんな怖い体験は御免です。

私の知人のお寺の息子は、お盆になると亡くなった檀家さんが挨拶に来るそうです。そういうこともあるのかもしれませんね。