旧犬鳴トンネルで見た、白いワンピースを着た女性の幽霊

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42歳 児童保育支援員(会社員) 男性 たなばたさん 福岡県宮若市で本当にあった怖い話

これは、私がまだ大学生時代、今から約20年も前の実話になります。

当時、私の先輩が心霊スポット巡りが趣味で、私も半強制的に連れまわされました。

また、その時はまだ今のように旧犬鳴トンネルはブロックなどで封鎖されておらず、さらには地元ではすでに有名な心霊スポットでしたので、ドライブがてら何度も先輩に連れていかれました。しかし、それまでは幽霊のようなものは一度も見たことはありませんでした。

何度も犬鳴峠に行く度に、恐怖感も麻痺してしまい、全く怖くなくなってしまった頃、いつものように先輩から犬鳴峠へのドライブのお誘いがありました。先輩も飽きないなぁ、などと思いながらも、車に乗り込みました。

時間は夜中の0時過ぎ。眠い目を擦りながら、どうせまた何も起こらないのだろうと思いつつ、先輩の我儘に付き合ってやるか、程度の考えで流れる夜景をただボーっと眺めていました。

その日は私を含め、3人で向かいました。

いつもと違う

車が犬鳴峠に近づくにつれ、いつもとは違う胸騒ぎがしました。

一番最初に犬鳴峠に行った時は、雰囲気の怖さでビクビクしていましたが、それとはまた違う、なんというか身体がざわざわしていて、まるで全身で犬鳴峠に行くことを拒否しているようでもありました。

ただ、気のせいだろうと自分に言い聞かせ、その日もいつものように後部座席でくつろいでいました。

そして、犬鳴峠に入った時、先輩が驚きつつ呟きました。

「うわぁ、今日は霧が凄いな」

稀に見る濃霧で、車のヘッドライトでは数メートル先を見るのもギリギリでした。

「先輩、今日は霧で危ないですから、帰りましょうよ」

胸騒ぎも手伝い、先輩に帰るよう促す私を、恐怖を払拭するように私の提案に応えました。

「こんな日だからいいんじゃないか。雰囲気があって、いつもより怖くていいだろう」

そう。先輩はそんな性格だった。少しの後悔と先輩の虚勢に少し困惑しながらも、ついには旧道に入っていきました。

明らかな異変

旧道に入った瞬間でしょうか。全身に鳥肌が立ち、言い知れぬ恐怖が襲ってきました。いつもならば笑い話でもしている頃なのに、他の2人も同じ感覚なのか、誰一人として喋ろうとはしませんでした。

そして、今では全国的にも有名になったあの旧犬鳴トンネルが濃い霧の中から現れてきました。

旧犬鳴トンネルの前に車を停めて、意を決したように先輩が言いました。

「・・・よし、降りようか」

もう1人の同乗者である私の同級生が、その先輩の言葉に促されて助手席から外に出ました。先輩も車から降りたのを見て、もう引き返せないものだと悟り、私も憂鬱な気分で外に出ました。

「今日は霧で・・・雰囲気ありますね・・・」

同級生がトンネルの入り口を見上げて呟きました。車のヘッドライトに映し出されて、奥の方まで見える旧犬鳴トンネル。今まで何十回と見てきたその光景は、明らかにいつもと違い、重々しい空気の中に異様な景色を醸し出していました。

「じゃあ、行こう」

その言葉に渋々と応えるように、私は歩き出した2人の後についていきました。

ピチャン、ピチャンと、天井から落ちる水。生ぬるく吹き抜ける風の音。全てが私たちを拒んでいるような声にも聞こえました。
ちょうど、トンネルの真ん中あたり、ちゃんとしたトンネルから一目で手掘りとわかるゴツゴツとしたトンネルになった辺りで、誰かが言い出しました。

「向こう側まで競争しよう」

暗がりで誰がそんな事を言い出したのかはわかりませんが、状況から明らかに場違いな台詞に少しムカッときた私は

「いや、そんな事を言える場合じゃないでしょ」

少しばかり口調を強めに言い返しました。

と、そんなやり取りの最中、私はふと向こう側、私たちが向かっている側の出口に目が行きました。そして、今日、このトンネルに来たことを後悔しました。

幽霊が追ってくる本当の恐怖

顔が黒い霧に覆われた女性。女性、と判別できる理由は、白いワンピースを着ていたからです。

「・・・先輩、奥の方、誰かいますよね?」

「・・・白くてぼんやりしてるのは分かるけども・・・なんだろ、あれ?」

先輩と私とでは、少し見た目が違っていたのか、ただ、明らかにこの世のものではないことは分かりました。

「奥の女・・・の人?なんか、だんだん大きくなってない?」

同級生に言われて、私もよく目を凝らして見たら、その顔が黒い霧で覆われた女性は、確かに徐々に大きくなってきました。

そして、私は嫌なことに気付いてしまいました。

「・・・大きくなってるって言うか、あれ、近づいて来てない?」

その女性はまるで水平移動するように、スー・・・っと我々の方へ近付いて来ていたのです。

アレはヤバい、アレはヤバいと、全身で拒否をするように目を逸らしました。そして、誰が何を言うわけでもなく、元の車の方へ三人とも走り出していました。

本当に怖いと人は逆に黙ってしまうもので、よくある怖い話や心霊体験談のようにキャーとかギャーとか、そういった声も出ず、というか、逃げるのに必死すぎて声を出すことを忘れてしまったような状態で、息を切らしながらやっとの思いで車までたどり着き、三人とも飛び乗りました。

「先輩、早く帰りましょう!アレはヤバい!!」

言われなくとも、といった様子で先輩は必死になって車を反転させていました。

軽自動車一台がギリギリUターンできるスペースだったので、焦りながらも、ようやくUターンに成功し、元来た道を走り出しました。

私は後部座席で異様な寒気と戦いながらも、背中に感じる違和感に気付いていました。

多分、まだ追ってきている。そう、確信が持てるほど、黒い空気が車の後方から漂ってきました。そして、旧道を抜ける辺りで、助手席に座っていた同級生が突然

「うわ!!」

と、叫び、俯いてしまいました。その時、同級生が何を見たのか、私と先輩にはまだ聞く勇気がありませんでした。

追ってきたもの

なんとか新道に入り、峠を降りた頃、街の明かりが見え始めたくらいで、ようやく私たちの恐怖心は和らいでいました。

そして、ファミリーレストランに入り、落ち着きを取り戻してから、先ほどの体験をぽつぽつと語り合いました。

「あの、追いかけてきた白いの、何?」

先輩の問いに、私が見たままのものを答えました。

「・・・あれ、白いワンピースを着た女性、だと思います。顔は、なんだか黒い霧みたいなのでわかりませんでしたけど」

「俺もそう見えました。多分、白いワンピース・・・」

同級生も私と同じものを見ていたようで、少し興奮気味に言いました。と、ふと疑問に思ったことを2人に問いました。

「あそこで『向こう側まで競争しよう』って言ったの・・・誰?」

一瞬、三人とも顔を合わせて顔を小刻みに横に振りました。「俺じゃない」という2人の仕草を見て、私が呟きました。

「じゃあ、あの言葉通りに向こう側に行っていたら、あの女性に・・・」

再び襲ってきた恐怖を噛みしめながら、三人とも俯きました。

暫くの沈黙の後、思い出したかのように、先輩が同級生に尋ねました。

「ところで、帰りに車の中でお前、何を見たんだ?うわって、言っただろ」

その同級生の答えを聞いて、私は二度と犬鳴峠には行かなくなりました。

「サイドミラーの中から、あの女がこっちを覗いていたんです。しかも、白目が無いというか、目が真っ黒で・・・」

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